古木の新たな価値を広げ、循環させる。株式会社山翠舎にインタビュー

古木の新たな価値を広げ、循環させる。株式会社山翠舎にインタビュー

クリーンエア・スカンジナビアは、SDGsに関する取り組みとして、サステイナブル・カンパニーを目指しています。

持続可能な発展への貢献。環境負荷削減のための責任ある行動。そして自社のバリューチェーンにおいて人々へのポジティブな効果を高めていくこと。私たちクリーンエアでは、こうした活動に取り組んで参ります。

この記事では、同様にSDGsの取り組みを行っている企業をインタビュー形式で紹介します。

株式会社山翠舎は、長野県長野市に本社を置く建築会社です。商業建築や飲食店・物販店などの内装工事、古木®買取販売、古民家解体再生移築などの事業を展開しています。

環境問題を背景に注目されているサーキュラーエコノミー(循環型経済)の概念を根底に持つ同社は、古民家の上質な木材を「古木(こぼく)」と定義し、「捨てるもの」から「新たな価値あるもの」として世に送り出してきました。

今回は株式会社山翠舎の代表取締役社長、山上浩明さんにお話を伺いました。

見事な古民家の解体に衝撃。古木を活かすビジネスを始めた


職人の手作業によって取り外された鉄砲梁(新潟県糸魚川市)

―本日はよろしくお願いします。まず山翠舎さまの事業内容について教えてください。

当社は1930年に長野県の木工所として始まり、職人の手仕事と技に支えられながら建具屋、工務店、内装業へとビジネスを広げてきました。

現在は、古民家から得られる「古木」を使った建築物の設計・施工、古民家活用、飲食店の開業支援、地域活性街おこしなど、さまざまな事業を通して「地域総合循環型ビジネス」を展開しています。


―古民家活用ビジネスについて詳しくお聞かせいただけますか?

古民家や古木のビジネスを始めたのは、父が率いていた山翠舎に私が入社してまもなくの2006年でした。長野の解体現場で見事な古民家が壊されていくのを目にして、衝撃を覚えたのです。

長年大切にされてきた素晴らしい古民家が、あっという間に壊され、木材が廃材になってしまう。これには古木を解体してストックするよりも、海外の建材を使うほうが手間ひまかからず安く済むようになったという背景があります。

しかし、たくさんの思い出が詰まった古民家を解体される方々の気持ちはどうなるでしょうか。その寂しい気持ちをどうにかしたいと感じました。

私は幼少期から父の木工所で木の端材や竹で遊んでいましたし、環境問題にも関心があり、大学では省エネルギーに関する論文を2本書きました。

こうした自身のバックグラウンドと解体現場での衝撃がきっかけで、私は古民家や古木を再生させ、そこに暮らした方の気持ちにも寄り添えるビジネスを立ち上げることにしたのです。


―「古木」の定義や種類についても教えてください。

山翠舎が定義する古木は、戦前80年以上前に建てられた古民家(一般住宅)の解体によって発生した柱・梁・桁・板の木材です。

社内の古木プロフェッショナルが、虫食いや水濡れのない状態を確認し、長野県大町市に構えた古木専門の倉庫で質が良い状態を保っています。この倉庫には、常時約5,000本もの古木の在庫があります。

山翠舎の大工は古木・古材の扱いを熟知していますので、のこぎりや鑿(のみ)を使った高度な技術である「手刻み」で細かな加工に対応できます。山翠舎では、手刻みができる職人のことを大工と呼んでいます。

100年、200年といった年月を経た古木は、囲炉裏から立ち昇る煙や煤で黒く燻(いぶ)されています。職人はこの燻された色を手作業で落とすことができるのですが、どのような茶色にしたいかは設計士やデザイナーによってさまざまです。それぞれの要望に合わせて煤の落とし方を調整できるのも、当社の職人ならではといえます。

近年は大工の数が減っていますので、当社の工場で古木を加工して、あとは組み立てるだけの状態にして工事現場へ納品することも可能です。


―古木は戦前に建てられた古民家の木材とのことですが、強度は変化するのでしょうか。

NHKブックスから出版されている書籍「法隆寺を支えた木」によると、伐採された木材は、時間が経つにつれて乾燥が進み、強度が増します。世界最古の木造建築物とされる法隆寺の金堂・五重塔は670~700年頃に再建されたといわれています。

昭和大修理の際の実験結果によると、この法隆寺の木材は曲げ・圧縮・強度などの強さがいずれも伐採から200年頃まで段々と増し、最大30%近くも強くなったそうです。その後1000年以上経過すると伐採当時と同じ強さに戻ることもわかりました。


―経年変化で強度が増すとは驚きです。古木は体に優しい性質もあるそうですね。

古木は自然素材で、人体に有害な化学物質を発生させません。また、当社のオフィスは建ってから10年ですが、まだ木の香りがしてリラックスできる空間です。

「古民家のサブリース」で地域活性化を目指す



―新しいお取り組み「古民家のサブリース」について教えてください。

山翠舎が展開する古民家・古木関連のビジネスは大きく3つに分けられます。1つは古木を使った空間施工です。古民家を解体して古木を買い取り、別の建築物の施工時に、1本~数本の古木を内装材として活用しています。山翠舎が手がけた首都圏500店舗はそれぞれ、一部に古木が使われています。

2つ目は古木を活用した建築工事・修繕です。人気スニーカーブランド・ニューバランスのコンセプトストア工事などがその例といえます。埼玉県川越市にあった、築122年の蔵を移築して組み直すという大規模な工事でした。

そして3つ目が、新しいチャレンジである「古民家のサブリース」です。空き家となった古民家を解体して古木を生かすのではなく、そもそも解体せずに活用するという事業です。これは街づくりにもつながっています。

具体的には、当社が空き家となった古民家を借り上げて、内外装に手を加え、活用したい事業者さんを積極的に探します。

たとえば古民家を家主の方から10年間の契約で借りて、「こんな良い古民家があるので、ぜひパン屋さんをやりませんか?」と事業者の方へ営業し、サブリースをするイメージです(参照:「信州門前ベーカリー蔵」 https://discovery.sansui-sha.co.jp/discovery/store/kura/)。

家主の方にとってのメリットは、自力では活用が難しい古民家を山翠舎に貸し、リフォームすることで資産価値が上がり、収入が増える点です。

空き家のままだと固定資産税を支払い続けなければなりません。山翠舎は10年単位で借りますので、固定資産税の支払いを上回る収入が約束され、家主の方は経済的にも得をします。そして信頼性の高い事業者とも出会えます。

事業者にとってのメリットもあります。工事内容や費用の不確実性が高い古民家活用は事業計画が立てにくいのですが、山翠舎には古民家工事を安くするノウハウがあります。

たとえば「古民家ジャッキアップ工法」という、地盤沈下などで沈んだ柱を上げ直す工法は特許出願中です。必要以上に床を剝がしたり、壁を壊したりせず、柱だけを一本一本上げることができるため、コストを抑えてすばやく修理できます。

当社はエージェント的な立ち位置といえるかもしれません。古民家の管理に悩む方と企業とをつなぎ、そもそも解体する必要をなくし、空き家でなくさせることを目指します。

この事業における特徴は、まず当社が古民家を借りてリスクを受け持つこと、そして事業者の方には売上連動賃料を提案するなど、運営事業者に寄り添った貸し方をするところです。

2019年から2年間、私は事業構想大学院大学の東京校で、事業構想立案の研鑽を積みました。そこで考え出したのが、この新しい形のサブリース提案です。

古木の歴史とぬくもりは、海外にも通用する


約150年前に建てられた古民家の柱と束石で構成されたKOBOKUベンチ

―古民家の新たな再生方法であるサブリース、とても斬新ですね。

古民家の空き家をよりうまく生かしていくという方向性、そして解体するのであれば、その古民家がもつストーリー性を大切にしていきたいと考えています。

ストーリー性を重視するという文脈では、古木は海外にも通用する強力なコンテンツです。

まず、海外では歴史あるものに対して価値を見出す文化があるため、そもそも「古木には価値があって……」という啓蒙活動をする必要がありません。そして日本文化に関心を持ち、リスペクトする外国人は増えているとNHKの「COOL JAPAN」で紹介されていました(参照:https://www.nhk.jp/p/cooljapan/ts/P2RMMPW5JM/episode/te/166G992M1M/)。

実は現在、古木を使った商品を海外でも展開中です。今年(2023年)1月19日~23日には、古木で作ったベンチをパリの国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展し、多くの方にご覧いただきました。ニューヨークへの新たな出荷も決まっています。

この「KOBOKUベンチ」は「ソーシャルプロダクツアワード2023」を受賞しています。安く買い叩かれる古材ではなく、価値ある財として古木を使い、「座るだけのベンチではなく、座ってみたくなるベンチ」を製作しました。2023年4月に銀座三越で展示もされました。

料理人の夢をフルサポートする「OASIS(オアシス)」


飲食店開業支援サービス「OASIS」サポートにて開業したペコラ西洋酒店(川崎市)

―山翠舎さまでは飲食店開業支援もされています。詳しく教えてください。

飲食店開業支援サービス「OASIS(オアシス)」は、飲食店に合う未公開物件の情報提供から家主との交渉、事業計画書作成、補助金や助成金の申請などをトータルでサポートする事業です。

保証金として求められる初期費用も当社が交渉・負担するため、初期費用が最大でゼロ円になる場合があります。


―なぜ飲食店を対象とされているのでしょうか。

飲食店を応援したいからです。飲食店があると街が元気になりますから、良い飲食店をたくさん作りたいと考えています。また、山翠舎ではこれまでに数多くの飲食店施工をさせていただきましたので、恩返しをしたいという気持ちもあります。

一般的に飲食店という業態は潰れやすく、10年で10%程度しか生き残れません。そのため金融機関は融資をしたがらず、融資を受けられても金利が高くなります。

ただ、これはビジネスのプロではない料理人の多くが事業計画をしっかりと考えられていないままに開業しようとする傾向にも要因があります。

融資金額が足りない場合、お店の内装にお金をかけられません。一方、長続きしているお店はコンセプトがしっかりしており、それが内装にも表れます。

こだわりの内装はお客さんに伝わりますので、結果的に10年以上続く飲食店はコンセプトがしっかりしたお店です。

オアシスは、飲食店の「老舗化」を強みとするサービスです。過去12年間で全国500軒の店舗を手がけてきましたが、その8割以上が休廃業せずに存続できています。


―料理人が料理人としての手腕を発揮できるよう、そしてお店が長く残るようサポートされているのですね。

料理人はメニューや食材、器、調理器具・厨房機器、スタッフの採用など考えるべきことがたくさんあり、一人で全てを進めるのは大変です。開業は一生に一度の大切な挑戦ですから、当社も真剣勝負でサポートしています。大リーガーの代理人のようなイメージです。

古木のトレーサビリティを活かし、こだわりの空間づくりを


約5,000本の古木を保管する大町倉庫にて実物を確認しながら打ち合わせをする様子(長野県大町市)

―御社が管理する古木を使って店舗を作る際、どのようなオーダーができるのでしょうか。

山上:たとえばワインソムリエにワインの好みを伝えるように、古木の年代や産地などでご希望を伺ってご提案できます。

先ほどお話した約5,000本の古木がある倉庫では、古木一本一本の入手地や年代、古民家のどこに使われていた部位かなどを記録しています。古木のトレーサビリティを確保することで、お客様のご要望に合わせて適切な古木を販売できるのです。

飲食店では料理に意図が込められていますから、空間にもこだわることを提案しています。お店の梁や柱などに使われている古木にも料理人の意図があって、お客さんがその意図を感じることができたら、おもしろいですよね。

今は古木の細かいオーダーをされる方は少ないですが、私としては今後、ワイン選びやお茶室の世界観と古木を近づけていきたいと考えています。

お茶室ではお茶を点てるだけではなく「この茶碗とお道具を使って、この掛け軸をかけて、このお菓子をお出しして……」と亭主の意図がストーリーとなって提供されます。同じことが「空間」でなされてもいいのではないでしょうか。


―オーダーメイドならではのおもしろさですね。

そうですね。一方、身の回りのもの全てがパターン化され、既製品に慣れている現代人にとって、オーダーメイドはある意味大変です。全部自分でやりたいように決められるとなると、逆に頼み方がわからないという方もいらっしゃいます。

店舗づくりはお客様からのリクエストと業者側からの提案、この繰り返しで図面ができていきます。オーダーメイドには手間がかかりますが、手間をかける楽しさを古木によって提供していきたいです。

古民家を解体させず、残したい


古木をデジタル管理し、世界への流通を試みている。

―今後の目標や展望をお聞かせください。

山翠舎が目指しているのは、「古民家を解体させずに全て残す」ことです。現在、日本には古民家が約130万戸あるとされているのですが、その古民家が活用されないまま解体されることがない世界をつくりたいのです。

しかし、解体せざるを得ないのであれば、解体した古民家から得られる古木がたくさんの方に利用される世界にしたいと考えています。

また、古木の売買がバーチャルでもできるようなマーケットプレイスをつくっていきたいと考えています。

捨てられるものに新たな価値を見出す「アップサイクル」の極みとして、リアルな古木だけでなくデジタルデータとしての古木の販売にも価値を与えられると思っています。

一般的にオリジナルの商品は高価ですが、数量限定でシリアルナンバーが打たれるような複製品にも価値がありますよね。ラグジュアリーブランドがすでにこうした販売を行っているように、私は古木もラグジュアリーなものにしていきたいのです。100年、200年も経っている貴重なものですから。

古木は最高峰。企業もSDGs貢献に向けて注目



―お話を伺って、古木が持つ可能性を強く感じました。SDGsの観点でも注目されているそうですね。

まずお店づくりに古木を活用したい方からは、右脳的、情緒的な理由からぬくもりある古木に注目いただいています。山翠舎では古木を職人が磨き上げることで美しい木目も現れ、画一的でない唯一無二の形状が人に安らぎを与えますので、居心地の良い空間をつくれます。

私は、古木は最高峰の資源だと思っています。先ほどお話したように、木は1000年間建築物を支えることも法隆寺で実証済みです。そして企業では、古木が持つ雰囲気の良さに加え、脱炭素的アプローチにも有効であると認められ始めています。

2021年12月には、テレビ東京の「テレ東経済 WEEK 脱炭素ビジネスドキュメント 地球を冷ます100人」で当社の事業が紹介されました(参照:https://www.tv-tokyo.co.jp/chikyuusamasu/)。


―最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

山翠舎は古民家や古木という日本固有の資産を活用して、さまざまな循環を回してきました。2020年には、古民家解体から古木にまつわる一連のシステムを「古民家・古木サーキュラーエコノミー」として明確に体系化したことで、グッドデザイン賞も受賞しています。

最近は、古木を使ったパタゴニア軽井沢ストアを施工させていただきました。これから古木の空間がさらに増えていきますので、空気の違いを実感していただければと思います。

クリーンエア・スカンジナビア様はスウェーデンで設立された会社とのことで、北欧家具も好きな私は社名の「スカンジナビア」という言葉に親しみを覚えました。

空気環境の改善に関するアプローチもそうですが、全世界的に北欧の考え方がベースになってきているのではないかと感じています。

何を作るにしても、売るにしても、自然と共生する方向性の発想が必要ではないでしょうか。今やっていることが、私たちの子どもや孫の世代につながる。そう考えると、環境問題や地域循環について大局的に捉えられるのではないかと思います。


―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。