「病院の喫煙対策最前線で問われる職員の喫煙リスクと現場が求める分煙設備とは」分煙対策(喫煙ブース)・空気清浄ガイド

分煙対策(喫煙ブース)・空気清浄ガイド
2025.11.5 分煙

病院の喫煙対策最前線で問われる職員の喫煙リスクと現場が求める分煙設備とは

病院職員の喫煙問題は、多くの施設管理者にとって頭を悩ませる課題ではないでしょうか。患者の健康を守り禁煙を指導する立場にある職員が喫煙していると、説得力を欠き、不信感を招くおそれがあります。

この記事では、病院職員の喫煙にまつわる現状や課題を整理し、医療機関で実現可能な分煙対策について解説します。

なぜ今、病院職員の喫煙対策が問題視されているのか



健康増進法の一部を改正する法律(改正健康増進法)により、2019年7月から「第一種施設」とされる病院・診療所は、原則として敷地内禁煙とされています。

ただし、屋外で受動喫煙を防止するために必要な措置がとられた場所には、喫煙場所(特定屋外喫煙所)を設置できるとされています。

日本医師会の取り組みなどにより喫煙率は減少傾向にありますが、依然として喫煙者は一定数存在しています。

とりわけ、禁煙を指導する立場にある医師や職員自身が喫煙している現状は、院内外からの不信感を招くおそれがあり、課題として指摘されています。

◇禁煙指導者が“喫煙者”という矛盾

禁煙指導に携わる医師や看護師が喫煙している場合、患者からの信頼を損なう可能性があります。説得力を欠くことで禁煙指導の効果が薄れ、治療への意欲低下につながるおそれもあります。

その一方で、職員自身が禁煙に取り組む姿勢を示すことは、患者にとって大きな励みとなり、禁煙の成功率向上にもつながります。

◇職員の健康リスクと医療機関のイメージダウン

職員の喫煙は、本人の健康問題にとどまりません。ニコチン不足によってイライラしたり集中力が低下したりすることで、診療の質や業務効率の低下につながる懸念があります。

さらに、喫煙が原因で疾患を発症すれば、出勤率の低下や休職・早期退職を招き、結果的に貴重な人材を失う可能性も否定できません。

加えて、喫煙者が多い病院は「健康意識が低い」という印象を持たれやすくなります。その結果、病院のイメージが損なわれ、患者の離反だけでなく、優秀な人材の確保にも影響が及ぶおそれがあります。

◇敷地内禁煙の徹底と現場での課題

法的には敷地内禁煙が原則とされていますが、実際には喫煙を続けている職員が一定数存在しているのも事実です。

現場では敷地内外での喫煙により苦情や近隣とのトラブルが生じることもあり、対応が不十分な場合には患者や自治体からの信用を損なうリスクがあります。

地域住民との良好な関係を維持するためにも、敷地内禁煙の徹底と、喫煙ルールを守るための適切な指導体制が求められます。

これらの課題を踏まえ、病院では受動喫煙を防止するための適切な屋外喫煙場所の設置や管理が求められます。

受動喫煙対策義務化と病院の対応負担

敷地内禁煙の原則を踏まえ、第一種施設として求められる受動喫煙防止の実務対応を整理します。

改正健康増進法では、施設管理者に受動喫煙防止対策の実施責任が課されています。病院を含む第一種施設に特定屋外喫煙場所を設置する場合は、次の条件を満たさなければなりません。

● 第一種施設の屋外の場所であること
● 施設の利用者が普段立ち入らない場所であること
● パーテーションなどで喫煙場所として区切られていること
● 喫煙できる場所である旨を記載した標識を掲示していること
● 近隣の建物に隣接する場所には設置しないように配慮すること
参照:東京都保健医療局「第一種施設における特定屋外喫煙場所」

ただし、こうした設備の導入や管理は職員の負担増となるため、特に人員が限られている小規模施設では対応が難しいケースも少なくありません。

◇非喫煙職員・患者・家族へのストレス

タバコの煙やにおいは非喫煙者にとって大きなストレスであり、受動喫煙への健康不安は医療機関全体への不信感につながるおそれがあります。

特に呼吸器系の疾患を抱える方や妊娠中の方、小さなお子様連れの家族にとって、その影響は深刻です。わずかな副流煙であっても、大きな苦情に発展する可能性があります。

こうした背景から、病院では受動喫煙を防ぐための徹底した管理と啓発が不可欠です。

まとめ

病院では、受動喫煙を防ぎつつ職員が適切に喫煙できる環境づくりが求められます。施設の規模や立地に応じて、法令に沿った屋外喫煙場所の整備や、空気環境の維持管理体制の確立が重要です。

職員と患者の双方が快適に過ごせる職場環境を整えることが、信頼される医療機関づくりにつながります。


■監修者情報

関谷 剛(せきや たかし)
医師、医学博士、労働衛生コンサルタント、ロハスオフィスグループ代表産業医
株式会社ロムラボ 会長、合同会社ロハスオフィス 代表社員
https://lohasoffice.co.jp/

信州大学医学部を卒業後、東京大学附属病院、国立国際医療研究センターなどに勤務。その後、東京大学大学院医学系研究科アレルギーリウマチ講座にてアレルギーを研究し、医学博士取得。また、東京大学医学部衛生学にて環境医学や免疫学を研究。予防医学、産業衛生学を学び、労働衛生コンサルタント、産業医資格も取得。現在では、産業衛生活動をサポートしているロハスグループの代表産業医として、多くの企業の産業衛生活動をサポートしたり、YouTubeや多くの講演活動をしたりしている。